こんにちは!「レタコミュ!18PLUS」です。
本日は前回からの「手紙が題材」シリーズ第二弾、映画「ラストレター」(監督/岩井俊二)編です。
「レタコミュ!18PLUS」的観点なので、悪しからず…^^;
あと、ネタバレも含みますので、ご了承下さい…。
まずは、あらすじをご紹介。
裕里(松たか子)の姉の未咲が、亡くなった。裕里は葬儀の場で、未咲の面影を残す娘の鮎美(広瀬すず)から、未咲宛ての同窓会の案内と、未咲が鮎美に残した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるために行った同窓会で、学校のヒロインだった姉と勘違いされてしまう裕里。そしてその場で、初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)と再会することに。
勘違いから始まった、裕里と鏡史郎の不思議な文通。裕里は、未咲のふりをして、手紙を書き続ける。その内のひとつの手紙が鮎美に届いてしまったことで、鮎美は鏡史郎(回想・神木隆之介)と未咲(回想・広瀬すず)、そして裕里(回想・森七菜)の学生時代の淡い初恋の思い出を辿りだす。
ひょんなことから彼らを繋いだ手紙は、未咲の死の真相、そして過去と現在、心に蓋をしてきたそれぞれの初恋の想いを、時を超えて動かしていく―――
公式ホームページからの引用
「手紙」を書くきっかけは、今の時代ドラマチックになるのかもしれない。
あらすじでは割愛されていますが、鏡史郎と再会した裕里は、まずLINE(?)の交換をします。けれどやりとりを夫に知られ、逆上した夫にスマホを水没させられ、鏡史郎と連絡できなくなります。裕里が知っているのは住所のみ。そこで裕里は鏡史郎に手紙を書くことから、文通が始まります。
裕里は最初の手紙で住所を書きませんでした。そのため鏡史郎は返事を裕里の実家へ出します。でも実家を離れている裕里の代わりにその手紙を受け取ったのは、未咲の娘、鮎美でした(宛先は未咲の名前だったため)。そこから話は、未咲と鏡史郎、そして裕里の高校生時代へと視点が向けられてていきます。
現代最初に連絡先を聞くのは、LINE。でもそれでは物語は進まない。そんな目論見があるのは予想できますが、その我々が当たり前のように使うLINEが、もし使えなかったら、どんな世界が待ち受けているのだろうかということを、提示されているような気がしなりません。LINEから離れ、手紙を書く。スマホでのやりとりが当たり前の現代人にとっては、何ともドラマチックな始まりのように感じます。昔は自然で当たり前だったことなのに。
IDが分からなくなって仕方ないから、手紙を書いた。住所は分かっていたから。電話ほど、急用でもないから。
裕里は返事がなくても二通目を鏡史郎に送ります。家庭の何気ない出来事なんかを書いて。
「ラブレター」は遠い世界の話になってしまった?
話は高校時代にさかのぼります。生徒会長でありマドンナ的な存在の未咲。平凡な妹の裕里。転校してきた鏡史郎に惹かれる裕里だったが、鏡史郎は姉の未咲に一目惚れします。
当時から文学青年だった鏡史郎は、未咲に手紙を書く。直接渡せず、妹の裕里に頼む鏡史郎。しかし鏡史郎のことが好きな裕里は、姉の未咲に鏡史郎からの手紙を渡せなかった―。
このように書けば、よくある恋愛話という感じもしますが、未咲を演じている広瀬すずさんの透明感、裕里を演じている森七菜さんの瑞々しさ、鏡史郎を演じる神木隆之介さんの清澄な雰囲気が見ているだけ美しく、それが妙に切ない。簡単に言えば「三角関係」なのかもしれないけれど、俳優と演出の妙なのか、決してドロドロした嫌な感じは全くなく、誰しも、経験したことがあるような気持ちに、寄り添ってくる感じがあります。渡せない裕里の気持ちも、直接は渡せなかった鏡史郎の気持ちも。
そして当時は、今のように携帯でやりとりしている時代ではありません。思いを伝えるなら、直接言うか、電話をするか、手紙を書く。それぐらいなものです。
手紙で伝えることを選んだ鏡史郎が「お姉さんに書いてきたんだけど」と言って裕里に渡すシーンは、妙にドキドキし、真っ白い封筒が何だか秘密めいて色っぽくも感じます。鏡史郎のドキドキ、渡された裕里のドキドキ、それがその真っ白い封筒からじんと伝わってくる不思議…。「大切なことは直接会って」と今の時代も言うけれど、スマホでのやりとりに慣れてしまっているせいなのか、手紙で想いを伝えることは、どこか特別なことで、ロマンチックです。それは「映画」だからなのか、「映画」でしか描かれない遠い世界の話になってしまったせいなのか―。
裕里が手紙を渡さなかったため、すれ違ったように思えた鏡史郎と未咲。ですが卒業式の答辞を読むことになった未咲は、鏡史郎に添削を頼みます。そこで二人は心を通わせていくところで回想は終わります。
人を想い、想われることとは。
大学生になった未咲と鏡史郎は、付き合うようになりますが、別れてしまい、その後未咲は阿藤という男と結婚してしまいます。二人の間に鮎美が生まれますが、阿藤からの暴力が酷く、二人は実家に戻ります。ですが未咲は自殺未遂を繰り返し、亡くなってしまいます。
そんな鮎美のもとに、未咲宛の鏡史郎からの手紙が届きます。裕里が最初住所を書かなかったため、鏡史郎は卒業アルバムを見て鮎美のいる実家へ返事を書いたためです。
鮎美といとこの颯香(裕里の娘)は半分面白がって未咲の名前で返事を書きます。でも鮎美は鏡史郎のことを知っていました。未咲が鏡史郎からの手紙や小説を大切にしていたことを知っていたからです。
鏡史郎からの手紙が鮎美のもとに届いた時、鮎美はどんな気持ちだったのでしょうか。
後に鮎美も裕里も、未咲と鏡史郎と一緒になってくれれば、というようなことを言うシーンがありますが、遅いよと思う気持ちなのか、まだ鏡史郎が未咲を想ってくれていると思い嬉しく思うのか―。でも鮎美には、未咲が鏡史郎からもらった手紙や小説から、その愛情を知っていました。そしてそれを大切にしている未咲の想いも。どうして別れることになったのかは分かりませんが、その時の鏡史郎の想いが書かれた手紙や小説は、時空を超えて鮎美の手元に届き、その想いを知り、鮎美の気持ちを救っていたのかもしれません。母は決して悲しい人生じゃなかった、こんなに想い、想われて、幸せだったんだと。
何度かやりとりをしたあと、鏡史郎は実家の鮎美のもとを訊ねます。そこで、鏡史郎は未咲が自分の小説や手紙を大事にしていたことを知ります。そして鮎美も、今まで読めなかった未咲の遺書を始めて開封することができます。
どんな思いで未咲が亡くなったのかは誰にも分かりません。でもその未咲の遺書は、鮎美の心に、そして鏡史郎の心に、前を向いて歩きだす力を与えてくれるものでした。
手紙は時空を超え、人を救うこともある。
手紙は、なくしたり、捨ててしまったり、燃えてしまったりしない限り、手元に残ります。
手紙は、電源を入れなくても、ログインしなくても、誰でも読めてしまいます。
鏡史郎からの手紙を金庫や鍵のついた箱にしまうことなく、鮎美でも見れてしまう場所に保管していた未咲。
もしかしたら、鏡史郎からの自分に対する想いを読んでもらい、自分は決して不幸ではなかったと、鮎美に伝えたかったのかもしれません。
鮎美も、鏡史郎も、もう未咲と直接話すことはできませんが、未咲が残した手紙の山から未咲を思いを感じることができた。そして偶然から始まった手紙のやりとりで、裕里、鏡史郎、鮎美の中で未咲はまだ生きているように動き出し、未咲自身を、そして未咲の思いを近くに感じることができた。過去を振り返り、そして前に進む力になった。
未咲が残した手紙は、鏡史郎自身を、裕里を、鮎美を救い、そして亡くなった未咲をも救ったのかもしれません。
まとめ
自殺という悲しい始まりでしたが、その死から「手紙」を通して人が前に進む過程をとても丁寧に描いていた作品でした。実はみたのは随分前なのですが、どのシーンも鮮明に思い出せるのが不思議でした。それだけ、一つ一つにシーンに無駄がなく、登場人物たちの心情が色濃くでていたのだと思います。季節は夏でしたが、それもまたよかった。ロケ地は岩井監督の地元・仙台みたいですが、東北特有の強すぎない太陽、生い茂る緑、湿気。妙にリアルで、美しかった。
私も、何か残せるものはあるのかな。でもとりあえず、その時その時の自分の思いに、一生懸命に生きたい。そんなことを思いました。